2023年度 講義内容

聖書学  ▶歴史・思想・文化  ▶原典講読  ▶言語

 A.出エジプト記を読む 月本 昭男 (経堂聖書会・立教大学名誉教授・上智大学名誉教授)
「出エジプト」は古代イスラエルの歴史の起点、信仰の原点として伝えられた民族の歴史伝承です。
そこには旧約聖書の民がその苦難の歴史のなかで培った信仰と思想がたたみこまれています。
この講義では、出エジプト記の物語伝承を読み進めながら、そこにこめられた信仰と思想を読み取り、その現代的意味を考えてみたいと思います。

第1回 モーセ誕生(出1-2章)
第2回 モーセ召命(出3-6章)
第3回 10の災い(出7-12章)
第4回 出立、海の奇跡(出12-15章)
第5回 荒野にて(出16-18章)
第6回 シナイ契約(出19,24章)
第7回 金の仔牛事件(出32-34章)
第8回 十戒、社会法(20-24章)
   
配信方法:オンデマンド配信 CD提供講座
使用テキスト:とくにありません。聖書(訳は問いません)をお手元において、受講ください。
参考図書
とくにありませんが、できれば、月本昭男『見えない神を信ずる』(日本キリスト教団出版局、2022年)所収の講演「出エジプト伝承の史実性とその思想的意義」を前もってお読みください。

 B.エレミヤとエゼキエルを較べて読む 金井 美彦
           (日本基督教団 砧教会牧師、立教大学・フェリス女学院・聖公会神学院・日本聖書神学校講師)
二人はユダ王国滅亡(紀元前6世紀初期)という未曽有の危機に直面しました。そして彼らはこの困難を乗り越える可能性を見出すことに生涯を捧げたといってよいでしょう。
エレミヤはキリスト教を準備し、エゼキエルはユダヤ教の父と呼ばれ、両者とも、古いイスラエルの信を土台としながら、新しい宗教への道を切り拓きました。二人に共通するのはやはり契約の更新、あるいは新しい契約への強い志向でありましょう。
一方、二人に共通する問題点として挙げられるのはやはりジェンダーバイアスです。これは聖書の宗教全体を覆う深刻な問題ですが、彼らの預言(とりわけエゼキエル)には、そうしたバイアスに基づく譬えが多いのは明らかです。
今回の講座では、彼らの預言の持つ「新しさ」と同時にその「古さ」をも明らかにしながら、二人の預言の今日的可能性を私なりに見出したいと思っています。 前回の講座と同じく、テキストをともに読むという姿勢でご参加いただけると幸いです。
 
配信方法:オンデマンド配信 CD提供講座
使用テキスト 聖書(訳は問いません)    

 C.イエスの奇跡(その2) 廣石 望 (日本基督教団 代々木上原教会担任教師、立教大学文学部教授)
2022年度に引き続き、イエスの奇跡を扱います。
イエスは「神の王国」の到来を宣教するために、譬えによる語りや交わりの食卓の実践と並んで、さまざま奇跡行為を用いました。しかし近代以降、奇跡は端的に「ありえない」ものとされ、聖書研究はその扱いに苦労してきました。
福音書に保存されたイエスの奇跡には、悪霊祓い、治癒奇跡、安息日規定にまつわる規範奇跡など比較的に史実性が高いとされるものと並んで、自然の脅威から人々を守る救出奇跡、物質的な欠乏を克服する贈与奇跡、そして顕現奇跡など、復活信仰を踏まえた原始キリスト教の影響の色濃いものが伝えられています。
使徒行伝を含む外典資料にまで目を広げれば、奇跡はイエスから最初期キリスト教に至るまで一貫して証言されている伝承様式であり、「現実とは何か」を私たちに問いかけます。
本講では、いくつかの重要な素材を(場合によっては使徒たちによる奇跡も)とり上げて論じます。

配信方法:オンデマンド配信 CD提供講座
使用テキスト レジュメを配布します。
参考図書
荒井献『著作集1 イエス  その言葉と業』岩波書店 2001年 337-442頁「奇跡物語」
エリザベス・S.フィオレンザ(編著)『初期キリスト教の奇跡と宣教』出村みや子訳 ヨルダン社 1986年
大貫隆『福音書と文学社会学』岩波書店 1991年 267頁以下「ヨハネ福音書における〈しるし資料〉」 295頁以下「奇跡物語の〈素材探し〉と〈意味探し〉」
同『イエスという経験』岩波書店 2003年 151頁以下「癒しと悪霊祓い ― 奇跡物語の成立と伝承」  
 

 D.ガラテヤ書を読む 田中 健三 (上智大学神学部講師)
ガラテヤ書を通読する。
パウロ書簡を一貫する「律法」「ピスティス」「罪」「性」などのテーマを掘り下げ、パウロの主張の背景を推測する。
また従来の諸注解書についても随時触れてみたい。

第1回 1章
第2回 2章
第3回 3章
第4回 4章
第5回 5章
第6回 「性」について
第7回 6章
第8回 「誇る」ことについて
 
配信方法:オンデマンド配信 CD提供講座
使用テキスト 聖書(訳は問いません)    

歴史・思想・文化

 E.イエスから初期教会へ:終末待望と贖罪信仰 — 落穂拾いと展望 大貫 隆
                               (日本基督教団 武蔵豊岡教会・東京大学名誉教授)
私は2018と2019年度のこの講座でイエスから後二世紀までの初期教会における終末待望、2022年度は「贖罪信仰」の起源と変容の問題を取り上げた。
2023年度はその全体を振り返りながら、前半は「人の子の到来と禿鷲」についての謎の語録(ルカ17,37/マタ24,28)が生前のイエスの「神の国」のイメージ・ネットワークに適合することを明らかにする(テーマA)。
後半はエルサレム原始教会に発して西方に向かって展開した「贖罪信仰」が現代日本のプロテスタント教会で活発な議論の的となっている中で、この用語の多義性が呼び起こしているミスコミュニケーションの問題について考える(テーマB)。
最後に、私たちが「今ここで」終末をどう考えるべきか、私見を再考してみたい(テーマC)。

テーマA 1〜5回
人の子と禿鷲(ルカ17,37/マタ24,28)
1 はじめに
2 元来独立のロギオンとしてのマタイ24,28/ルカ17,37
3  ルカ17,20-37およびマタイの並行記事の分析
4  Q資料から史的イエスへ
テーマB 6〜7回
「贖罪信仰」をめぐる現代の議論によせて
1 「罪の贖い」と「苦難の贖い」の区別
2 「罪」の定義の変容
3 「贖罪信仰」の教理化が孕む問題
4 現実性全体の根源への問い
テーマC 8回
神も途上に・再考

配信方法:オンデマンド配信 CD提供講座
使用テキスト 新約聖書
参考書
大貫 隆『イエスという経験』, 岩波書店, 2003 (現代文庫版2014)
大貫 隆『終末論の系譜  初期ユダヤ教からグノーシスまで』, 筑摩書房, 2019
大貫 隆『イエスの「神の国」のイメージ ユダヤ主義キリスト教への影響史』, 教文館, 2021
山田耕太『Q文書 訳文とテキスト・注解・修辞学的研究』, 教文館, 2018

 F.金と神~資本主義の神学 福嶋 揚
                    (神学博士、東京大学大学院・立教大学大学院・日本聖書神学校 兼任講師)
現代世界は、自然生態系の破壊・貧富差の極大化・世界戦争という三重の危機に直面しています。この複合的な危機の原因を深く探ってゆくと、あくなき経済成長を目指して競争する国民国家同士の争い、言いかえれば、資本と国家という二重の権力の肥大化という根本的な原因が見えてきます。宗教もまたこのような資本と国家の支配と決して無関係ではありえません。
そこで本講座が試みるのは「資本主義の神学」です。資本主義という一種の巨大な宗教にも似た現象(物神崇拝)がいかにして誕生し、発展し、今や危機に瀕しているのか。そしてキリスト教が資本主義からどれほど深く影響を受けてきたか。さらに資本主義を克服する理念や実践は、キリスト教を含む世界宗教の中に残されているのかどうか。
本講座ではこれらの問題を解明したいと思います。

第1回 序論―資本主義という名の宗教
第2回 金と世界宗教―枢軸時代について
第3回 金と神の相克―中世
第4回 金と神の相克―宗教改革
第5回 金と神の相克―近代(特にマルクスを手がかりとして)
第6回 金と神の相克―現代の危機(生態系破壊・貧困・世界戦争)
第7回 聖書に基づくいのちの経済
第8回 総括―資本主義を非神話化する

配信方法:オンデマンド配信 CD提供講座
参考文献
柄谷行人『力と交換様式』 岩波書店。
斎藤幸平『人新世の資本論』、集英社。
ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、岩波文庫。
ベンヤミン「宗教としての資本主義」、『ベンヤミン・コレクション7』、ちくま学芸文庫。
マルクス『資本論』、岩波文庫。
ヤスパース『歴史の起源と目標』、河出書房新社。
Duchrow/Hinkelammert, Transcending Greedy Money, Palgrave Macmillan.
 

 G.J・S・バッハのカンタータ ー教会暦にしたがってー 川中子 義勝(東京大学名誉教授)
J・S・バッハの声楽曲、ことにそのカンタータを毎回対象として取り上げ、その内容を解説していく。
バッハのカンタータは、ルター派教会の礼拝に用いるために、「教会暦」に基づいて作曲された。その主題は、当該聖日の説教が扱う福音書章句、書簡章句と密接に関わっている。コラールやレチタティーヴォ・アリアによって構成されたその歌詞テクストを、宗教詩として読み解きつつ、バッハが与えた音楽的解釈について、曲を聴きながら考察する。
信仰の歴史や伝統との関わり、暦や祭りの意義と役割、民俗学的な意味にもふれる予定。

第1回 復活節期のカンタータ
第2回 昇天節、あるいは聖霊降臨説のカンタータ
第3回 マリア関連の聖日、あるいは三位一体節のカンタータ
第4回 洗礼者ヨハネの祝日、あるいは市参事会新任式のカンタータ
第5回 ミカエルの祝日、あるいは宗教改革記念日のカンタータ
第6回 教会暦末日ころのカンタータ
第7回 待降節、あるいは降誕節のカンタータ
第8回 新年、あるいは顕現節のカンタータ

対面講義
使用テキスト   

原典講読

 H.旧約聖書原典講読 月本 昭男 (経堂聖書会・立教大学名誉教授・上智大学名誉教授)
2022年度に引き続き、創世記の原初史を読み進めます。
2023年度は創世記9章3節から読みはじめます。 聖書ヘブライ語文法を復習しながら、一回に10節前後をめどに読み進めます。
目標は、
①邦訳聖書間にみられる訳文の違いの理由を理解できるようになること、
②翻訳聖書に反映することが難しい、原典ならではの意味合いを読み取ること、
の2点におきましょう。
ご自身の翻訳ができれば、さらなる飛躍です。

配信方法:ライブ配信 CD提供講座
使用テキスト 
Biblia Hebraica StuttgartensiaのGenesis(分冊もあります)をご用意ください。
Biblia Hebraica QuintaのGenesisでも結構です。
参考図書
各自、聖書ヘブライ語の文法書を参考にしてください。
詳しい文法書をご覧になりたい方には次の2点のどちらかをお勧めします。
Gesenius' Hebrew Grammar, Dover Publications, 2006.
P. Jouon / T. Muraoka, A Grammar of Biblical Hebrew, Gregorian Univ. Pr., 2006.
 

  I.新約聖書原典講読 吉田 忍 (農村伝道神学校・関東神学ゼミナールなどで非常勤講師)
新約聖書を原文で読み進めます。
必要に応じて文法事項の確認を行います。
今年度は、引き続き「テサロニケの信徒への手紙一」(5章4節~)を読み、その後、「フィリピの信徒への手紙」を読みます。

配信方法:ライブ配信 CD提供講座
使用テキスト Nestle-Aland, Novum Testamentum Graece, 28. revidierte Aufl. Stuttgart 2012 

言語(通信講座)

 J.ギリシア語通信講座 吉田 忍 (農村伝道神学校・関東神学ゼミナールなどで非常勤講師)
新約聖書ギリシア語の初級文法と基本語彙の習得を目指す(全18回)。

第1回 文字と発音、アクセント
第2回 直説法能動相現在・第一変化名詞・格の意味
第3回 第二変化名詞、第一・二変化形容詞、定冠詞、εἰμί
第4回 第3変化名詞/ 形容詞、人称代名詞、指示代名詞、強意代名詞、前置詞
第5回 πᾶς、直説法中・受動相現在
第6回 母音融合動詞、直説法能動相・中動相未来、εἰμίの未来
第7回 直説法能・中・受動相未完了過去、εἰμίの未完了過去、否定詞、否定疑問文
第8回 直説法能・中動相第一・二アオリスト
第9回 直説法受動相アオリスト・未来、比較
第10回 直説法能・中・受動相現在完了(過去完了)
第11回 能・中・受動相現在分詞、能・中動相未来分詞、εἰμίの現在・未来分詞、分詞の用法(1)
第12回 能・中・受アオリスト分詞、受動相未来分詞、分詞の用法(1続き)
第13回 能・中・受動相現在完了分詞、分詞の用法(1続き)
第14回 分詞の用法(2)
第15回 接続法
第16回 条件文、不定詞
第17回 関係代名詞・不定関係代名詞、命令法
第18回 μι動詞

講座形態:通信講座 月1回の郵便による通信添削指導を行います。
          ※受講開始時に、学習要領をお送りします。
教科書 大貫隆『新約聖書ギリシア語入門』岩波書店 2004年
    ※教科書は、各自購入してください。 

 

ゼミ形式

 ゼミ.内村鑑三を読もう 世話人 宮﨑 文彦 (無教会自由が丘集会・千葉大学特任研究員)
                 鷲見 誠一 (無教会新宿集会・慶応義塾大学名誉教授)
内村鑑三の『キリスト信徒のなぐさめ』を読む。
毎回担当者を決め、担当者が内容を要約、解説し、その後で感想を話し合う。
担当者は、参加者が交代で務めるが、話を聞くだけの参加も歓迎される。

第一回 「第一章 愛する者の失せし時」
第二回 「第二章 国人に捨てられし時」
第三回 「第三章 キリスト教会に捨てられし時」
第四回 「第四章 事業に失敗せし時」
第五回 「第五章 貧に迫りし時」
第六回 「第六章 不治の病に罹りし時」
第七回 「解説(鈴木範久)」
第八回 「教会のこと」(内村鑑三『宗教座談』より、資料として宮崎が配布)

配信方法:ライブ配信 参加費 毎回300円(お支払方法は、開催時にお知らせします)
使用テキスト 内村鑑三著『キリスト信徒のなぐさめ』岩波文庫、2021年(新版)
参考図書
内村鑑三著『基督信徒のなぐさめ』岩波文庫、1976年(改版)
『内村鑑三全集』2(岩波書店、2001年第2版) (初版「基督信徒の慰」を収録)

関西で開催される講座のご紹介

関西地区で、下記「旧約聖書ヘブライ語学習会」「新約聖書ギリシア語学習会」の2講座が開設されます。
コロナ以前は、JR甲子園口駅付近の会場で、対面で行っていましたが、感染症対策のため、当面の間、リモート(オンライン講義)で実施いたします。
受講希望者は主催者にご連絡ください。

 旧約聖書ヘブライ語学習会 主催 木幡 藤子 (大阪聖書研究会・広島大学名誉教授)
ひき続き 「イザヤ書」 を読みます。

開催日      毎月 第1・第3水曜日、10時開始
          ただし7月半ばから9月半ばまで休み
受講料      250円/回
教科書  事前に入手すべき教科書・参考書は、特にありません。
     詳しい文法書である P.Joueon-T.Muraoka, A Grammar of Biblical Hebrewを必要
     に応じて参照します。
     この本の中からその日の個所に関係する部分を抜き書きしたものを前ってメールで送
     付します。
学習方法 Skype使用によるオンラインで行います。。
     Skypeが使用できるよう、できるだけ各自で準備してください。
     なお、オンライン学習会は録画し、30日間それを視聴することができます。

 新約聖書ギリシア語学習会 主催 香西 信 (岡山聖書集会主宰・京都大学大学院博士課程認定退学)
「ガラテヤの信徒へ手紙」を読みます。
必要に応じて、詳しい文法書 F. Blass, A. Debrunner and R W. Funk, A Greek Grammar of the New Testament や註解書にも目を通し、原文の意味をじっくり考えながら進みます。

開催日      毎月 第1・第3水曜日、13時開始
          ただし7月半ばから9月半ばまで休み
受講料      250円/回
教科書  大貫隆『新約聖書ギリシア語入門』岩波書店を参考書として使いますので、予め購入
     しておいてください。
学習方法 Skype使用によるオンラインで行います。。
     Skypeが使用できるよう、できるだけ各自で準備してください。
     なお、オンライン学習会は録画し、30日間それを視聴することができます。

 
  

    




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